【八重山諸島】西表島の地質・形成史〜日本の熱帯ジャングル〜

地理

亜熱帯のジャングルが生い茂る非日常の環境
今回はそんな西表島の自然や形成史を解説していきます。

概要

位置・形状

西表島の位置
東京都から1,970km

東京から南西におよそ1,970km、沖縄本島からはおよそ440km、石垣島からは西方25kmに位置します。

西表島の面積は約284.44km、周囲約130Kmの島で、日本国内で第12位、沖縄県では沖縄本島に次いで2位の大きさです。また、南側の急な岸を持つ台形の島で、最高峰は469.7mの古見岳です。

西表島には空港がないため、来島の際には一度船や飛行機で石垣島に訪れたあとは、離島桟橋から高速船やフェリーに乗って西表島の東部もしくは西部の港まで行くことができます。

石垣島についての解説はこちらからどうぞ

気候

西表島気象台:気象庁

年平均気温23.9℃、年平均湿度約78%の亜熱帯海洋性気候の島です。

1年のうち最寒月平均気温は1月の18.5℃と一年を通して18℃を下回ることがない熱帯の気候区分に属し、月降水量が常に100mm以上であり、基準の60mmを下回ることがないことから熱帯雨林気候が分布していることが分かります。

冬でも最低気温が15℃前後ですが、島特有の風の強さがあり、雨もよく降ることから体感気温は寒く感じます。

夏の最高気温は32℃前後と東京のほうが暑い日があるような気候ですが、一方で最低気温は27℃前後と毎日のように熱帯夜が続きます。

5月上旬までの梅雨前までに台風が来ることもありますが、「うずりん」と呼ばれる沖縄では最もよい季節と言われています。6月下旬前後には梅雨もあけ、夏本番になりますが海風が良く吹き、日かげで風通しが良ければ東京より過ごしやすい気候です。

西表島ではスコールという通り雨が毎日のように降りますが、短時間局所的な大雨で、1日の降水量的には少量のことも多々あります。そのため、夏には干ばつや断水の心配も稀ではありません。

地質

西表島の山地はほぼ全域が海抜300~450mの小起伏面が発達しており、東から西に約1度以下の傾斜でわずかに傾き下がっています。全体としては西~北西方向に数度~十数度傾斜する中心世前期の八重山層群を切る浸食小起伏面で、これらを切って西北西ー東北東に走る短い5本のC級活断層があります。

西表島の東~北東部を中心に更新世の海抜段丘が発達しています。それらⅣ面(木庭,1980)に区分し、いずれも更新世後期としました。完新世離水サンゴ礁は未発達ですが、ビーチロックは点在しており、星の砂浜では離水ビーチロックが、祖納では潮間帯下部のビーチロックが見られることから、約3900年前から約2900年前(未較正値)にかけての海面低下が示唆されます。

西表島は上記の活断層とほぼ同じ方向に連なるリニアメントが顕著で、島の水系はこれらのリニアメントにかなり影響を受けています。河川の横断面形は多くの場合、幅数百m以下、深さ約200m以下の樋状の谷地形を呈しています。これらの樋状谷はエチオピアでみられる熱帯山地の谷地形に類似しています。また、樋状谷の最上流部は多くの場合、半円形谷頭を示しています。河川の縦断層面には多くの遍急点があり、これらは西表島を構成する八重山層群中の砂岩、泥岩の差別浸食の結果によるものと考察されています。

リニアメント:主に地質構造に起因していると判断される、広域的な直線状あるいは緩い弧状に配列した地形的特徴
半円形谷頭:半円形谷頭はハワイ諸島の中で化学的風化が著しく降水量が多い地域に発達している。琉球列島では沖縄本島の南部の泥岩地域にも多く見られる

浦内川や仲間川などの大きな河川の河口には、三角州が発達しており、マングローブが分布します。そして西表島にはマングローブが群生する流域面積最大の川「仲間川」(132 ha )があります。その他の河川にマングローブ林が 仲良川 80 ha , 浦内川 51 ha , 船浦湾 44 ha など合計 503 ha と日本の約7割が西表島に群生しています。

石垣層群 トムル層

西表島東部に分布(荒木,1981)し、島の北東部の野原崎一帯に露出している緑色片岩・藍閃石片岩より構成される層をトムル層と言います。

緑色片岩が石英ー雲母片岩・雲母片岩・石墨片岩などと互層し、また、枕状溶岩や礫岩などの組織の残っている部分も見られています。西表島の変成岩類は、石垣島のトムル層と共通の岩相を示すので、トムル層に含まれています*2。

この層には黒色片岩と緑色片岩が互層している部分が多く観察できます。また、層理面と片理面は平行で斜交した部分は見られず、北西方へ傾斜しています。

野原崎付近では藍閃石ー陽起石ー絹雲母ー緑泥石ー緑れん石ー石英片岩・藍閃石ー緑れん石ー緑泥石片岩など、そして分布範囲内の西部に位置するヨナラ川上流では藍閃石ー緑れん石ー緑泥石ー方解石ー石英片岩・絹雲母ー緑泥石ー陽起石片岩などが確認されています。
野原崎付近では剝離性に富んで藍閃石と陽起石が共存するものが多く、ヨナラ川上流では一見塊状を呈し、藍閃石を欠くものがあります。変成度は東側が少し高いようです。

層厚は約500mです。

宮良層群

宮良川層

西表島での宮良川層はヨナラ川上流にそって、ごく小範囲に露出している石灰岩を主とする地層を宮良川層と呼びます。石垣島では宮良の北などに分布しています。

含有化石から始新統であるとされました。宮良川層の下部は、トムル層に不整合に重なる礫岩で、チャート礫は含まれていません。上部は黒色で緻密な石灰岩から構成され、貨幣石とも呼ばれるヌムリテスやアステロサイクリナなどの大型有孔虫・石灰藻を多く含んでいます。

層はほぼ水平で、厚層は20mほどです。

野底層

西表島北東部に分布する火山岩類は、八重山層群(Yaeyama Coal-bearing Beds)の下部に含められ(Hanzawa,1935)ていましたが、1965年にその火山岩類を野底層とし、下位の宮良層と不整合とされました(Foster,1965)。そして、宮良川層と野底層はともに始新統であることが確かめられています。

西表島の野底層は、層相から石垣島の野底層の延長であると見ることができます。そして、西表島における野底層はトムル層を著しい不整合関係で覆っていて、美原北方ではトムル層の南側に断層で接しています。

西表島の野底層下部は主として安山岩質火山角礫岩・安山岩質凝灰角礫岩・安山岩質溶岩で成り、上部は石英安山岩質溶岩・流紋岩質凝灰岩・流紋岩質角礫凝灰岩・流紋岩質溶岩から構成されています。ほかには少しの石英安山岩岩脈や玄武岩岩脈なども見られ、石垣島ほどではないが、緑色凝灰岩状になっているところも確認されています。

層厚は300mほどです。

八重山層群 西表層

西表層は野底層に不整合に載っており、礫岩・砂岩・シルト岩から構成され、石炭・石灰砂岩を伴っている層が西表層と呼ばれています。今の北海岸の由珍川の東からニシ崎までの一帯が模式地としてほぼ島全域にわたって分布します。

岩相の累積順序に応じてA~Gの7層に分類されています。このうちF層は八重山夾炭層の名の由来した夾炭部であるため、最も盛んに石炭が稼業された内離島の模式地として、、内離島夾炭部層とされています。

層厚は700mほどになります。

A層-基底礫岩

西表島の基底礫岩で、由珍川の東側から古見岳中腹一帯と相良川沿岸に分布します。礫は大きさが2~20cmの球形円礫で、大部分が白色のチャートが主で、赤色チャート・変成岩の礫が混じっています。

下部に青灰色のシルト層をはさみ、上部にいくほど球形度・円磨度ともに低下し、基質は下部ほど乏しくなります。相良川上流には石英質ワッケもしくはサブグレイワッケのレンズをはさんでいます。

層厚は160mほどです。

B層-砂岩

砂岩・砂岩シルト岩互層・異常堆積を示す砂岩で構成され、由珍川西岸から古見岳山頂を経て、南西方および相良川下流沿岸から前良川沿岸を経て仲間川下流沿岸に至る地域とウバル崎西方の南海岸に分布しています。

互層中のシルト岩は炭質物が多く、レンズ状を呈し、そして砂岩と指交します。北部では、厚さが7m前後の無層理砂岩が連続しています。

層厚は約50~70mです。

C層-礫岩・砂岩

礫岩・砂岩シルト岩互層・植物片を含むシルト岩・砂岩により成り、B層の西側に沿って、また大富付近にも分布しています。

下部には礫岩が卓越していますが、A層の礫岩に対して球形度が低く、基質が多く存在します。石灰分で膠着され硬質で、上部にいくほど礫質砂岩になります。また、Ⅽ層中部の植物片を多く含むシルト岩からは植物化石と一緒にシジミ属の化石も産出されます。

層厚は70~90mです。

D層-砂岩・シルト岩

下半部は淡黄色の砂岩、上半部は砂岩シルト岩互層より構成されています。北海岸のヒナイ川以東と南海岸の大浜以東、内陸部では浦内川上流沿岸や仲間川中流沿岸に分布しています。

互層は暗灰色シルト岩と明灰色砂岩がほぼ等量に重なり、特有の層相を30~60cmの厚さで示しています。シルト岩には球枕状構造や荷重変形などの堆積構造が見られます。

層厚は70~100mです。

E層-斜交層理の砂岩

斜交層理のよく発達する砂岩より成り、ヒナイ川・浦内川・仲間川・クイラ川上流などに広く分布しています。西部・南西部の海岸では露出しています。

内陸では著しい造瀑層で、ヒナイ滝・カンピラ滝・マリウドの滝などを含む多くの滝がE層にかかっています。砂岩は一般に中~粗粒で、淡黄色~淡橙色を呈しています。

層厚は100~150mです。

F層-内離島夾炭部層

模式地とされている内離島北東海岸の成屋東方の旧炭鉱付近一帯ではE層の厚い砂岩の上位に炭質物の薄層が認められ、この部分がF層の下限とされています。F層は砂岩シルト岩薄互層・砂岩・石炭・炭質シルト岩より構成され、島の西半に分布しています。

石炭は5層準に認められ、最大層厚は30cmで、一般に薄く連続性はあまり見られません。F層下部の「本層」と呼ばれた炭層が37cmの最大層厚を持って最も広く連続分布していることから主要稼行層でした。炭質は良好で、亜瀝青灰、一部瀝青炭で構成されていました。

厚層は60~140mです。

G層-砂岩シルト岩互層・砂岩

下部は砂岩シルト岩互層、中部は砂岩、上部は斜交層理を一部で示す砂岩を主とする層が、島の西半の山頂部から北西海岸にかけて分布しています。

G層の下底は数cmから20~30cmの比高の起状を示すところが多く、下位層を削り取り込んだ状態のところも存在します。最下部の砂岩には漣痕や級化層理が発達しています。中部の砂岩の中に貝・蘚虫類(苔虫類)・有孔虫などの化石を豊富に含有し、石灰砂岩や貝殻石灰岩となるところも存在します。

この硬質部分は以下の祖納礫岩の中の礫岩として大量に含まれています。外離島ではサンドパイプが見られ、イタヤガイ類 (種未詳)A1、アムシオペクテン類縁カンコエンシスA2などの化石が採取されました。

A1:Chlamys sp. A2:Amussiopecten aff. kankoensis

祖納礫岩

西表島北西部の祖納海岸に露出している、琉球層群に覆われている礫岩が祖納礫岩と呼ばれています。祖納礫岩はヒナイ川河口付近・星立東方・祖納・内陸島成屋・舟浮と網取の中間のサバ崎半島の基部・崎山西方ハイミ崎の南に分布しています。西表島の北西部に点在していると言えます。

祖納以外の分布地域では西表層との不整合関係が見られ、内離島・サバ崎半島では不整合関係の両層が断層で転位する状態が確認されています。

祖納礫岩の礫は大きさが2~3cmから20~30cmまでの球形もしくはやや偏平な円礫が多く存在し、2m以上の巨礫が含まれることもあります。礫種は砂岩・石灰砂岩・貝殻石灰岩で、すべて西表層を由来としています。とくに石灰岩礫は西表層のG層が源岩で、表面に貝などの断面が現れており、大型有孔虫が発見されています。

最大層厚は80mほどです。

琉球層群 住吉層

西表島に存在する琉球層群に含められる礫岩・砂岩・石灰岩を住吉層と呼びます。島の北西部から北東部を経て南東部にいたる海岸にそって断続的に分布しています。

分布高度は40m以下で、高さ20~40mの海岸段丘の構成層です。石垣島の大浜層とともに、琉球層群の上部層だと考えられています。

野底崎では下部から順に、非石灰質砂層、有孔虫殻を含む砂質石灰岩、現地性群体さんごを含む石灰岩、さんご塊が散在する有孔虫および砕屑物石灰岩、ファビアB1などが群体をなし、層状石灰藻が充填する石灰岩の順序で重なっています。

B1:Favia sp. プロコイド型の六射サンゴなどが属する

船浦では石灰質砕屑物石灰岩が西表層に直接載っており、上方にいくほど石灰藻球とさんごの破片を多く含む石灰岩となり、最上部では現地性の群体さんごより構成される石灰岩となります。

このような累積順序は他の地点においてもほぼ共通ですが、厚さは多様で、石灰岩の基底部に洞穴が形成されている地点も存在します。

ヒナイ川と浦内川の間から上原にかけては、高さ40m前後の台地状の部分に、非石灰質で大きさが5~20cmの砂岩円礫の礫層が分布しています。祖納礫岩と比べると固結度はかなり低いことが確認されています。船浦・上原付近から上位方および海岸方向に向かって、非石灰質礫層は石灰質砂層に移化しています。

標高40m以下で分布します。

海浜および低地堆積物

西表島の海岸線は沈水有湾海岸の特徴をもってますが、その湾入部の沖積地は、島内で最も流域の広い浦内川の下流部でごく表層でのみで砂質の堆積物によって発達しています。河口~入江のマングローブの水底には粘土質の堆積物も存在します。

主要河川の河口部以外には浮石粒が混在するサンゴ・貝・有孔虫などの破片により構成されます。ビーチロックは砂浜のよく発達している海岸でよく確認できますが、発達はあまり良好ではありません。

バキュロジプシナやカルカリナといった有孔虫が多く含むニシ崎の海岸砂の特徴から星砂の浜と呼ばれています。

形成史

西表島における特徴的な地質をまとめた表が以下になります。

年代地質年代堆積した地層
2億9,890万
~2億130万年前
後期ペルム紀
~三畳紀
石垣層群 トムル層
4,600万
~3,390万年前
中期~後期
始新世
宮良層群 宮良川層
~3,390万年前後期始新世宮良層群 野底層
2,300万
~1,500万年前
前期中新世八重山層群 西表層
年代未詳祖納礫岩
23万~1万年前中期~後期
更新世
琉球層群 住吉層
1万年前~完新世海浜および低地堆積物
~現代現世現世堆積物
変成作用の時期前期
2億3,000万~1億6,000万年前:後期三畳紀~中期ジュラ紀 トムル層

3億年前~
西表島の基盤の形成

2000万年~1500万年ごろ
グリーンタフ変動の発生。野底層での凝灰岩の緑色化がこれに相当*3。

グリーンタフ変動:陥没盆地の発生→海底火山活動→隆起に至る地殻変動。火山噴出物は広域・熱水変質のため緑色化する。

1,000万年前以降
南琉球が 最終的には時計回りに19度回転する 移動の開始

8500年前~
完新世サンゴ礁が堆積し始める

3900年~2900年前ごろ
ビーチロックから推定される海面低下の発生

参考文献

*1
*2 八重山諸島 石垣島・西表島の地質 国立情報学研究所
*3 グリーンタフ変動 琉球新報 2003.03.01

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