南鳥島の特徴や価値を地形や海域の性質を中心に解説します。
概要
南鳥島は、最東端の島であり、東京都から南東約1,950km、小笠原諸島父島から東南東に約1,300km、硫黄島から東に約1,100kmの位置にあります。
面積は1.51km2で皇居ほどの大きさです。隆起サンゴ礁によって周囲約7.6kmのほぼ正三角形を成していて、標高は最高9mしかありません。
(位置:北緯24度18分、東経153度58分)
緯度は石垣島や西表島とほぼ同程度、経度はシドニーよりやや東です。
島内には滑走路や波止場、防衛省や国土交通省の駐在施設があり、港湾の施設の整備や気象観測等が行われています。
南鳥島の基線を根拠とした排他的経済水域は、国土面積より大きい約43万㎢にも及びます。南鳥島は、海底からそびえ立つ巨大な海山の山頂部で、マーカス-ネッカー海嶺上にあり、太平洋プレート上にある日本領土で唯一の陸地です。
太平洋プレートとともに西へ移動しながら沈降する火山島の上に造られたサンゴ礁で、もとは環礁だったものが、水没して現在の地形になったと考えられています。
最高標高9m程度の平坦な地形ですが、島の周囲のサンゴ礁の外側は、すぐに深さ約1,000mもの断崖になっており、周辺の海域は水深が約6,000mにも及びます。
(画像参照:A Paleogene magmatic overprint on Cretaceous seamounts of the western Pacific Island Arc 2021年1月3日掲載 東北大学 東京大学 千葉工業大学)
日本最東端に位置する南鳥島は、日本で一番早い初日の出を見ることができる場所です。
環境
気候は、ケッペンの気候区分によるサバナ気候に属しています。1991~2020年の30年間の年間平均気温は、23.7℃と温暖ではありますが、年間の降水量は1,052.8mmと日本国内と比較してあまり多くありません。
南鳥島は、熱帯気候と亜熱帯気候の推移帯に位置する海洋性気候で、年平均の気温は約23.7℃です。月平均気温も年間を通して20℃を下回ることが無く気温変化が小さいのが特徴です。東京と比較すると、1月の最低気温は19.1℃(南鳥島:20.3℃、東京:1.2℃)、2月の最低気温では17.5℃(南鳥島:19.6℃、東京:2.1℃)も高くなっています。
平均湿度は変動の幅が小さく、年間を通して東京より高く推移します。東京と同様に冬季に平均湿度が低くなる傾向がありますが、年間の総降水量は東京(1598.2mm)と比べて66%程度と少なく、また、寒候期に降水量の少ない東京に対して、南鳥島は2~6月が少雨、台風発生数の増える7、8月は多雨となる特徴があります。
また最少雨月降水量60mm未満かつ57.89mm(=100-0.04×年平均降水量:最少雨月降水量=43.4mm)以下である*1と言えるため、熱帯気候の中でも冬に乾燥する地域が属するサバナ気候(Aw気候)と言えます。
形成史
1億6000万年前 | 南鳥島周辺の太平洋プレートの形成 |
1億数千万年前 | 南鳥島の周辺海域の古い海山全体での火山活動 |
1億年前 | 急激な海水面上昇と太平洋プレートの冷却によって水没 |
4000万年前 | 火山の再活動 |
南鳥島の周囲の海域には、1億数千万年前に火山活動によってできた古い海山が多く存在します。これら海山群の中にある南鳥島も、同じような形成過程を経て周辺海域の海山と同様の形成時期だと考えられていました。しかし島は珊瑚礁やサンゴによってできた石灰岩に覆われていて、島の土台となった玄武岩が採取されていなかったことから、南鳥島の地質や形成史が以前まで不明で、南鳥島だけなぜ「島」として存在しているのか、原因が分かっていませんでした。
東北大学東北アジア研究センターの平野直人准教授、東京大学大学院総合文化研究科の角野浩史准教授、海上保安庁海洋情報部の森下泰成大洋調査課長、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターの町田嗣樹上席研究員、東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンターの安川和孝講師、加藤泰浩教授らの研究グループは、南鳥島の形成史を初めて明らかにしました*2。
南鳥島周辺の太平洋プレートはおよそ1億6000万年前に形成されました。その後、1億数千万年前の火山活動によってプレート上にできたホットスポットの海山群が、沈み込む太平洋プレートとともに伊豆小笠原海溝-マリアナ海溝に向かっています。
南鳥島の陸地には火山活動の痕跡である「玄武岩」がありません。地質調査をしても主に珊瑚礁や石灰岩であるため、島として山体を成長させた歴史的な経緯が分かっていませんでした。
この調査は、海洋研究開発機構の有人潜水調査船「しんかい6500」によって、南鳥島の北西側海底斜面で行われ、水深3400mにて潜航調査を行い、島の土台を成す玄武岩が初めて採取されました。南鳥島は、周囲の多くの海山同様、1億数千万年前には存在していたことが分かっています。
しかし玄武岩の年代測定(1)を行った結果、およそ4000万年前の火山活動によって噴出した岩石であることがわかりました。したがって、周囲の他の海山群同様に、南鳥島の山体は1億数千万年前にはすでに存在していましたが、4000万年前に再び火山活動がはじまったことになります。
南鳥島は、周囲1000kmの範囲で周辺海域に他の島が存在しない絶海の孤島です。南鳥島周辺の海山群は、どれもおよそ1億年前の急激な海水面上昇と太平洋プレートの冷却によって水没した古い火山体であることが分かっており、水深1000mよりも深い場所に水没してしまっています。
また、同海域西部の伊豆小笠原海溝に近い小笠原海台や上田海嶺上から採取された玄武岩からも、約5500万年前の再活動が確認され、特に小笠原海台においてこの時期に再活動があったことも判明しました。南鳥島のみならず、この海域全体で火山の再活動が確認されたのは2021年の研究が初めてのことです。なぜ南鳥島がこの時代に再活動したのかについては、いくつかの説が挙げられていますが、解決には至っていません。これからのこの海域における更なる深海調査が期待されています*2。
(1)本研究では、岩石に含まれるアルゴンの同位体を使い岩石の年代を測定されました。岩石の成分であるカリウムは、時間に沿って一定の割合でアルゴンに変化するため、アルゴンの同位体の量を見積もることで年代が分かります。
国境・海域的資源価値
レアアース泥
レアアースは電子製品の性能向上のため、さまざまなものに使用されています。供給量が減ればスマートフォンやパソコン、次世代自動車などの生産に支障が生じ、国民生活にも影響が出てしまいます。
しかし、現在はほぼ全量を輸入に頼っており、6割は中国から輸入しています。中国はレアアースの輸出管理を強めており、供給途絶のリスクが懸念されています。そのため、2022年(令和4年)11月に政府は経済安全保障推進法に基づき、国が供給確保に関与する「特定重要物資」にレアアースを指定しました*4。
産業への活用
南鳥島周辺海域では、レアアース泥やコバルトリッチクラスト等の貴重な海洋鉱物資源が発見され、資源開発に向けた様々な調査・研究が進められています。
排他的経済水域である南鳥島周辺の海域にレアアース泥が分布していることが分かっています。これにより、レアアース資源開発の可能性が生まれ、「海洋基本計画」や「日本再興戦略」など国の主要政策にはレアアース泥の調査・開発技術の推進が明記されています。
南鳥島レアアース泥開発の実現を目的として、2014年に「レアアース泥開発推進コンソーシアム」を東京大学に設立され、日本を代表する30以上の企業・機関が参加しており、5つの部会に分かれて鋭意検討を進めています。
南鳥島で採掘されるレアアース泥は、中国で採掘されている鉱山の20倍、世界最高品位の「超高濃度レアアース泥」です。また、採掘の有望エリアおよそ100km2だけでも日本の数10年分~数百年分の需要に対応できる潜在能力があるとわかっています*3。
しかし、レアアース泥は水深5000~6000mを超える深海底にあります。そのため、レアアース泥の開発システムとしては、海洋石油生産で多く用いられている「浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備 (Floating Production, Storage and Offloading system: FPSO)」を応用したシステムを検討しています。海底からレアアース泥を揚げるためには「エアリフト」という技術を用います。これはパイプに圧縮空気を送り込んで泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き揚げるものです。
揚泥されたレアアース泥からは、希塩酸を用いてレアアースをリーチング(浸出) します。このリーチング溶液を陸上工場へ輸送し、レアアースを分離・精製します。また、残泥には水酸化ナトリウムを添加することで中和・無害化し、埋立資材やセメント資材、環境資材として使用することが考えられています。
そして、採掘には内閣府の事業、2022年に茨城県沖で試験が成功した世界初の技術を用います。茨城県沖での試験では海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」が深さ2,470メートルの海底まで「揚泥管」を伸ばし、ポンプで1日約70トンの堆積物の回収に成功しました。この深度での海底堆積物の揚泥は世界でも初めてでした。
開発した技術は、JAMSTEC及び開発に参加した企業とともに7件の特許申請しています。2023年度以降、深海に対応するためにポンプの強化や揚泥管の延長などを進め、1日350トンの採掘量増加を目指しています*6。
中国では鉱山などで採掘できるのに対し、深海の底からの採掘はコストをどこまで下げられるかが課題です。政府は今後5年間で効率的な採掘・生産の手法を実現させ、28年度以降は民間企業が参入できる環境を整えたい考えとしています。
生成原因
南鳥島沖の排他的経済水域内に分布する海底鉱物資源「超高濃度レアアース泥」が、約3,450万年前に起こった地球の寒冷化に伴って生成したことが明らかになりました*5。この発見は、海洋大循環の変動と巨大な海山群の存在が現代社会を支えるレアアース元素の有望な資源を生み出すトリガーとなっていたことを示す世界初の証拠です。
本研究グループの提案した超高濃度レアアース泥の生成メカニズムの模式図。上図の温室地球では、比較的穏やかな海洋循環の中で、大量の栄養塩が海洋深層に蓄積しています。下図の寒冷化の開始時には、大量の栄養塩が湧昇流によって表層にもたらされ、魚が増加して魚骨片堆積が増加した結果、超高濃度レアアース泥が生成したと考えられます。
今回の発見によって、超高濃度レアアース泥が巨大な海山のふもとに出来やすいことが明らかとなり、今後の海洋資源探査における重要な指針になると期待されます。
本研究の結果から、超高濃度レアアース泥の探査の重要なターゲットとなるのは、深海底にそびえる大規模な海山の周辺であるといえます。南鳥島のある北西太平洋から中央太平洋にかけては、多数の大規模な海山が分布しています。今後、水深5,000 m以上の深海底に存在し、海底面からの高さが1,000 m以上の海山の近傍を探査することで、超高濃度レアアース泥の新たな分布域を発見することができると期待され、今後の重要な探査ターゲットになると考えられます。
学問的価値
WMO観測地点
また、南鳥島は、人間活動の影響が極めて小さく、大気環境観測において理想的な場所であることから、日本で唯一、世界気象機関(WMO)における世界31観測点(2022年8月時点)の全球大気監視計画全球観測所に指定されています。
歴史的観点
南鳥島では、第二次世界大戦時、地上戦こそ行われませんでしたが度々空襲が起きていました。
開戦時に配置されていた兵力は海軍将兵約350名でした。そして戦局 が悪化してきた昭和18年3月、さらに島の防備が強化されることになりました。昭和18年9月1日の初空襲以来、防備は次第に強化され、昭和19年夏には坂田善市大佐が率いる2,070名の混成独立第3連隊(歩兵3個大隊、野砲・戦車・通信中隊など)が配属、その後海軍部隊も強化され、南鳥島警備隊司令・松原雄太少将の下には15cm水平砲2門や8cm高角砲3門を主力とした800名近い兵力が配属されていました。
空襲で南鳥島には、終戦までにのべ779機が来襲しました。日本軍は高角砲や機関砲で応戦、相当の損害を与えたものの、死傷者を248名の出しました。
そして硫黄島陥落後になると本土との連絡・補給も絶たれ、食糧不足から数十名の兵士が栄養失調などで死亡した。戦死・戦病死者の合計は191名となっています*7。
参考文献
*1 南鳥島 平年値 主な要素:気象庁
*2 A Paleogene magmatic overprint on Cretaceous seamounts of the western Pacific Island Arc 2021年1月3日掲載 東北大学 東京大学 千葉工業大学
*3 南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く 東京大学
*4 レアアースの脱中国依存へ、南鳥島沖の水深6000m海底から採掘 読売新聞
*5 南鳥島沖の「超高濃度レアアース泥」は地球寒冷化で生まれた 神戸大学
*6 レアアース泥採鉱装置による水深2,470m海域からの海底堆積物揚泥試験の成功について JAMSTEC
*7 南鳥島(マーカス島)について 硫黄島探訪